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分散型リトルブレインのまま進む道、他方はリトルブレインを背面中央に縦列させ、感覚器官が集中する一端、すなわち頭部に中央制御装置を新設する方向だ。
前者を選んだのがクモ、力、昆虫などの節足動物、後者を選んだのが魚類に始まる脊椎動物である。
節足動物の頭部神経節を脳と呼ぶこともあるが、一般には脊椎動物の系統で、背面中央に縦列させた神経節(=脊髄)の自立性をほとんど奪って「中央集権」化し、脊髄前端に出現した特殊な臓器が脳である。
驚くべきことに、どんな「単細胞」の人物でもヒトであればこの脳をもっている。
魚類、両棲類、肥虫類、鳥類、哨乳類という進化の階梯に沿って脳の「進化」を眺めると、生物が種ごとに独自でありながらつながっており、しだいに脳に「余計なもの」を付加してきたこと、そしてヒトの脳はもっとも近縁のチンパンジーとくらべてさえ奇形的に巨大化していることがわかる。
そうすると、進化とは脳の巨大化なのかという感じになるかもしれないが、それはちょっと待ってもらいたい。
ここでは進化という言葉を生物学の約束に従って使っている。
これは遺伝するしょせん、食うためには動かねばならないという理由で発生した神経のなれのはてが脳である。
構成要素に分解すればニューロン、すなわち情報伝達専業に特異化した細胞である。
脳システムの全容はともかく、一個のニューロンがどんな仕組みで機能するかは、もうかなりのところまで解明されている。
その具体的なメカニズムに言及するまえに、まず知っていただきたいのは、生物体の構成単位であるすべての細胞は、相互の接触、化学物質のやり取りを介してコミュニケートする能力をもっているという事実である。
単細胞生物もしかり。
彼らにあっては細胞間がすなわち個体間であるわけだ。
だから、ニューロンは、他の細胞とまったく異質なわけではない。
ところで、情報伝達を専業とする細胞には、ニューロンのほかにもう一種、タイプの異なるも形質(形態とは限らない)が変化することであって、変化の方向が人間の価値基準で上か下か横か斜めかを問わない。
現存の単細胞生物だって、誕生以来ずっと横に進化してきたかもしれないではないか。
生物について高等とか下等と呼ぶ場合も、それは約束事にすぎず、優劣の観念を含まないことに留意すべきである。
私個人としては、単細胞で立派に生きられるアメーバのほうが、複雑化し奇形的に巨大化した脳で「脳とは何か」などと考えているヒトより、生物としてずっと優秀だと思う。
ホルモン分泌細胞だ。
これは血液中に化学物質、つまりホルモンを分泌する。
分泌された化学物質は血液の流れに乗って情報を伝えるべき目標の細胞(標的細胞)にたどりつく。
標的細胞の細胞膜には、その化学物質だけを特異的に受け取る「手」がある。
これをレセプターと言い、化学物質がレセプターに受容されたらメッセージが伝わる、という仕組みである。
ホルモンは血流とともに動くので、その情報伝達速度は毎秒数ミリ〜数センチと遅い。
おまけに全身に拡散しがちで効率が悪い。
これに対してニューロンは、細胞膜の一部を突出させて標的細胞のそばまで伸ばし、細長い繊維状の部分(軸索)ではパルス波の電流(インパルスを用い、標的細胞のレセプターの直前で化学物質を放出する方式を採用した。
ホルモン分泌細胞とくらべるとCATVとかわら版ぐらいの差がある。
軸索終末と標的細胞との連絡部分をシナプス、両者の間の5万分の一ミリほどの隙間をシナプス間隙と呼ぶ。
細かく言うと、シナプスを形成しないで「遊んでいる」軸索終末があったり、無髄神経の場合、軸索の途中から化学物質を溶出させる例があるらしいが、情報伝達の基本的システムはシナプスにおける化学物質の放出と受容である。
この化学物質を神経伝達物質という。
神経伝達物質は現在50ほどが知られており、研究が進めば二百ぐらいになると考えられているが、特別に変わった物質ではない。
生体内ではありふれた物質に由来する。
ニューロンには、軸索部分が裸の無髄神経と、髄鞘という絶縁被覆をもつ有髄神経がある。
髄鞘を形成するのはニューロンの補助役に特異化した細胞(中枢ではグリア、末梢ではシュワン)である。
軸索部分の情報伝達(興奮伝導)速度は、無髄神経が毎秒1メートル前後、有髄神経は100メートル前後だ。
もっとも単純な場合、ニューロンのシナプス数は入出力各1であるが、通常は細胞体から多数の樹状突起を伸ばし、その樹状突起や細胞体に多数の入力シナプスを形成する。
軸索終末もまた複雑に分岐して、しばしば複数の標的細胞と出力シナプスをつくっている。
特定のニューロンは、一種とは限らないが特定の神経伝達物質を細胞内で産生し、軸索終末のシナプス小胞に貯蔵している。
その神経伝達物質が、どんな仕組みで放出されるかというと、これはニューロン膜の性質を述べなければ説明できない。
ニューロンが刺激を受けて発火し、インパルスが軸索終末に到達すると、シナプス小胞に貯蔵されていた神経伝達物質はシナプス間隙に放出され、レセプターに受容される。
ところで、シナプスには、もう一つ注目すべきシステムがある。
神経シナプスでは、神経伝達物質を放出するほうを前シナプスニューロン、受容するほうを後シナプスニューロンと呼ぶが、前シナプスニューロンの軸索終末にも向代謝性レセプターがあるのだ。
これをオートレセプターと称し、その機能の全容はまだ解明されていないが、放出された神経伝達物質を認識することによって、それ以上の過剰放出を止める機構のセンサーとして働いていることは確かである。
このようなメカニズムを負のフィードバックという。
体温や血糖値などを一定に保ち生体の恒常性(ホメオスタシス)を維持するために、負のブイードバック・システムは不可欠の機構であり、一、二の例外を除いてホルモン系や神経系では必ず組み込まれている。
たとえば、脳下垂体が分泌する甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって甲状腺が刺激されると、甲状腺はチロキシンを産生し放出する。
脳下垂体にはチロキシン濃度に敏感に反応するレセプターがあって、チロキシンを受容するとTSHの分泌を抑制するため、血中チロキシン濃度は一定に保たれるのだ。
ニューロンの場合は、系としてのシステムだけでなく、ユニットが単独でも自己完結型の負のフィードバック・システムを備えているわけである。
好奇心←快感を動機づけに用いた戦略ミスニューロンに起こる電気的現象を考えると、神経伝達物質は興奮性のものと抑制性のものがそれぞれ一種あれば事足りるように思える。
それなのになぜ、二百もの化学物質が使われるのか、いまのところよくわかっていない。
おそらく末梢の感覚情報を求心的に伝えるだけの伝達系や、逆に思考や価値判断というようなコンピュータの論理演算と同様の方式でデータを処理する高次脳の神経回路では、神経伝達物質はオン・オフのスイッチの役を果たすのが主要な役割だろう。
しかし、喜怒哀楽などの情動、快・不快などの気分を醸出する系では、化学物質そのものがなんらかの情報を担っているらしい。
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